2012年03月06日

大学は進路を得る場所じゃない


今日は公立高校の全県模試の日だ。
そんな日にこの記事は水を注そうとしているわけではない。
多分。


子供の将来を考えることって、どういうことだろうか。
それは単純にいい学校を出て一流企業に勤めることではないし、そういう道筋を親が強いることでもないと思う。
親がすべきことは、子供の資質を見極め将来就きたい職業のメリットやデメリットをアドバイスしつつ、本人が進むべき道を考える機会を作ってやることだ。
子供に夢を持たせることは大事だが、残念ながらすべての夢が叶うわけではない。特に夢を売る職業に就き、その職によって生計が立てられるのは本当に極僅かな実力と運を兼ね備えた人々である。

例えば絵が上手いことと、漫画家で生活ができるとは別物だ。
漫画家になることは極めて容易い。
だが、その中で『売れっ子』になるには絵の上手さも当然として、ストーリーの上手さや目新しい切り口を見つける弛まぬ研究や着眼点、斬新な表現力など絵の上手さ以外の要素が大きい。それを無責任に「絵が上手いから漫画家になるといいよ」とは親は言わないだろう。
しかし多くの親はこう言うのである。

「大企業(有名企業とも言えるか)に勤めなさい」
「○○だったら安定しているから」

これは「漫画家になりなさい」と大して言ってることはかわらない。
これらの発言は子供の資質を無視した意見のように思えるのだ。

また、特定の職業に就くためには避けられないコースがあるものもある。医師であれば大学医学部を経なければ医師にはなれない。弁護士は大学法学部卒でなければならない。教師は大学教育学部卒でなければならない。
高校で進路先に選択した大学が、将来の仕事を決めてしまう。
いや、それ以前のどの高校に進むかでもかなり将来の仕事の選択肢を狭めている。
何故なら、東大や京大をはじめとする旧帝大系や名門私立大への進学は進学実績を多く持つ高校が最も現実的になるからだ。そうでない普通科高校に入学するとそれらの大学はほとんど絶望的になる。
高校によって使う教科書も違い文系科目の力量はかなり開きがあるからだ。この力量で上位高校の卒業生と同じ土俵で戦うのは無謀というものだ。
だからこそ小学校から中学でかなり将来のことを決定付けていると考えられる。つまりこの時期からしっかり力を付けてきた生徒が将来の選択肢を多く持っていることになる。そしてその時期に将来の仕事について多く話す機会を持たなければ何も目標がないまま何となく「行ける高校」へ入学することになる。
15歳までに自分の具体的な将来像を作ることは一見難しいように思えるが、子供の素質はほとんど小学生の間に出てくるとの研究がある。
確かに運動のできる子、絵の上手い子、勉強のできる子、リーダーになる子などその子の特徴が小学校時代に出ているケースはよく目にすることである。
この時点で向き不向きがあると考えるのが自然だろう。
成績の良い子供に「オマエは中学を出たら土木作業員になれ」とは言わない。
もし、そんな親に出会ったら「頭脳労働させてやれよ」と言うだろうな。

この地でもしAクラスの大学を目指すのであれば、間違いなく私立は東明の特1で公立は上野丘か舞鶴有利ということになる。Bランク以下をターゲットならもう少し下まで。偏差値63~60あたりの高校普通科だろう。地方では顕著に出ないが、都市圏の私立高校では如実にあるため、一般的に入る高校でほぼ大学も決まっている状況がある。
先日のエントリで開成中学のことを書いてあるが、都会では東大のようなAaaaクラスの大学を目指す者は、最初からこのような学校を受験して早くから目標を定めていることが多い。

ひとつの例を持ち出してみよう。
わかりやすい医師を目指すケースについて。

まず成績が優秀であることは言うまでもない。更に責任感が強いことも大事だ。そして何より体力があり健康であること。これはどの職業でも要求される才能かも知れないが。
経済的問題も医師の場合、悩ましい問題だろう。大学の学費の中で最も高いのが医学部の授業料。
しかも医学部は6年制で諸々含めるとおよそ3000万円くらい掛かると言われている。そして大学院へ進み就職して数年のインターン期間を経験し、一人前になる頃には30の声を聞こうかという歳である。
普通は学費と成績で諦めてしまうケースが多いが、奨学金や学費免除などを使えれば学費の問題は解決することも多い。これは他の学部でもあてはまること。
問題は医師のように「資格職」の場合、学校だけの勉強では終わらないことだ。
自分で自分を制して勉強できる努力家でないと勤まらない。常に勉強しなければならない職業は他にもあるが代表的なのが医師という職業だろう。
勉強があまり好きではなく、途中から「受験のために」勉強した生徒が将来優秀な医師になれるかは疑問だ。もちろんハッキリと「大変な職業だけど遣り甲斐があって打ち込める職業」として選択したのなら、勉強嫌いは直るかも知れないし、優秀な医師になれる可能性も高い。
これから医師になることによって起こり得るリスクもある。
現在も医師は不足気味である。何よりも優秀な医師が少なく、どこの病院からも引っ張りだこなのは聞いたこともあるだろう。反面、そうでない医師はそういう状況ではない。病院も潰れるケースが目立ち始めており、以前ほど安定した時代ではなくなってきている。
また「医師=高収入」もイメージが高いが、実はそれは開業医の話でしかも高い利益率を出す美容整形外科などの分野だ。その他はそれほどでもない。
何より時間的拘束が長く、生命の責任を負わなければならない仕事として給料が高いか、と言えばそれほど高いとは思えない。
しかも1人前の医師を育てるための金額とその後に稼ぎ出す生涯賃金を比較すると、文系卒よりコストパフォーマンスはかなり劣る。
少なくとも医師になれば高い給料という時代は終わっている。それでも医師になって人々を助け社会に貢献したい、という希望があれば勧めて良いのではないだろうか。
因みに「薬剤師」は進む大学が薬学大学あるいは大学薬学部という道になる。
薬剤師は薬を扱うので同じ理系の医師とは違い化学の分野になる。日本ではあまり一般的な認識ではないが海外では「科学者」の位置付けにある。同じ医療の範疇にいながら立場が異なっているのである。
薬学も6年制であり、薬剤師の国家資格を取得して薬剤師になれる。
一般的には調剤薬局の人、というイメージが強いがドラッグストアや薬品メーカーへの就職も多いのが特徴。

親も様々な職業の概観だけでも情報を集めて子供と職業の話をすべきだ。
大学はおろか高校さえ資格として必要ない職業のために「みんなが行くから」という理由だけで行ったり、履歴書に「大学卒」と書きたいために大学に行くなんてことほどバカバカしいものはない。
Fランク以下の大学を卒業した者を会社の人事は評価していないことを知っておくことだ。
大体、偏差値が30~40台の大学って何を教えてるんだ?
大学校としての意義はあるのだろうか。
特にこんな時代だからこそ、会社に貢献してくれると思われる勤勉な学生を企業は欲しているのだから。
目的意識の低い学生の場合、高校3年間で果たして自分の将来を見つけることができるのかは疑問が残る。
最初の話に戻るが高校の選択時に将来をある程度託してしまっている。それを方向転換するのは難しくはないが、負担は大きい。
日本の仕組みはそういう融通がききにくい構造なのだ。


出身大学が人生を決める全てではない。
常にどういう努力をするかが大きく人生には影響しているのだ。
世間での出身大学評価があるのは、その勤勉さについてである。

大学に進むのはその教育が自分の仕事に必要だから行くのだが、半分以上が大学進学の時代においてはそうでもなくなってきている。
そういう時代において大学というのはご威光が薄いところも出てきていることも認識すべきである。

さて、何故大学の話なのかだが、当然こういうことも知っておかなくてはならない。
進学率の高い普通科高校は言い方が悪いが「大学進学予備校」である。
こういう高校で卒業して就職するケースは、工業系や商業系を初めとする専門性の高い高校より格段に難しい。実業系の高校は特定分野に特化しているからこそ就職してからの教育が容易なのに対して、普通科の学生は一般教養のレベルこそ高いが専門に関しては実業高に対して3年のハンディがある。
その分、教育に時間がかかる社員であり、業種によっては使い難い。
これは現場で社員教育したときに凄く実感した部分だった。
オレの場合、工業系の学生との比較なのだが、工業出身の社員は概ね原理や理論に強い。従って現場での消化が非常に良い。
普通科卒の社員は、仕組みをまず理解できないケースが目立つだけでなく、応用力がないケースが目立った。大学で専門分野の教育を受けて違う会社に行った方が良かったのでは、と思うこともしばしばあった。

高校は残念ながら大学をどうするか方向を決める最後の砦だ。
理系なのか文系なのか決定することが、将来どのような職業に就くのか決定的なものにしている。
加えて、理系から文転するのは比較的容易だが、文系から理系への理転はかなり難しい。
自分の将来のことだ。かなり真剣に考える時期だと思う。
もしかするとその将来は中学生の段階で決めなければならなかったかも知れない。もちろんその逆もある。高校生になって理系じゃない、と気がつくこともあるだろう。

大学へ行くことが人生の選択肢を広げる理由にはならない。
それは以前に書いたスティーブ・ジョブズのスピーチ記事を引用するまでもないことだ。
自分自身と向き合い、自分の資質を見極め、何をするべきか考えることの方が重要だと思われる。その為に必要なら「学べる」大学や大学院を選択して勉強すれば良いのだ。
目的が見つからず、何となく偏差値から行けそうな大学を受けて卒業しても、世間の評価は伴わないことを常に意識すべきであろう。
偏差値の高い大学出身者に対する認識は「勉強のできる人」という評価はされるだろうが、それが会社における貢献度をあらわしていることでもない。そう単純ではないのだ。
問題なのは大学=目標と定めてしまうことの弊害だ。
大学へ進学することを優先することは人生の目標を大学と取り違えてしまうことになりかねない。そんなバカな、と思われるかも知れないが、本来、自分の将来の夢があるからこそ「大学」という選択も浮上するものなのだ。
しかし、大学進学を最優先すれば合格した時点で目標を見失う。
大学に行ってから目標を定めようなど既に遅いのである。
親からのアドバイスは「今、何になるのか考えなさい」というだけ。
それで充分だと思う。

国立・私立大学評価一覧

【Aaaa】
東京大学、京都大学

【Aaa】
一橋大学、大阪大学

【Aa】
名古屋大学、慶應義塾大学

【A】
北海道大学、東北大学、九州大学

【Baa】
筑波大学、早稲田大学、東京工業大学、東京外語大学

【Ba】
横浜国立大学、千葉大学、神戸大学、広島大学、お茶の水大学

【B】
首都大学東京、東京学芸大学、大阪外語大学、大阪市立大学、上智大学、ICU国際基督教大学

【Caa】
金沢大学、岡山大学、熊本大学、電気通信大学、東京芸術大学、名古屋工業大学、東京理科大学、立教大学 同志社大学

【Ca】
埼玉大学、新潟大学、静岡大学、奈良女子大学、東京海洋大学、東京農業大学、九州工業大学、横浜市立大学、大阪府立大学、京都繊維大学、京都教育、名古屋市立大学、明治大学、立命館大学

【C】
滋賀大学、信州大学、群馬大学、茨城大学、三重大学、大阪教育大学、京都府立大学、小樽商科大学、青山学院大学、中央大学、関学大学、学習院大学、津田女子大学

【Daa】
宇都宮大学、岐阜大学、徳島大学、長崎大学、鹿児島大学、豊橋技術大学、神戸外語大学、法政大学、関西大学、北里大学

【Da】
和歌山大学、岩手大学、山形大学、山口大学、長岡技術大学、富山大学、香川大学、愛媛大学、弘前大学、都留文化大学、高崎経済大学、北海道教育大学、兵庫教育大学、成城大学、成蹊大学、明治学院大学、南山大学、芝浦工業大学

【D】
大分大学、高知大学、福井大学、山梨大学、宮崎大学、福島大学、鳴門教育大学、独協大学、国学院大学

【E】
北見工業大学、室蘭工業大学、鳥取大学、島根大学、秋田大学、佐賀大学、琉球大学、日本大学、駒沢大学、専修大学、京産大学、甲南大学、龍谷大学、武蔵大学

AランクからEランクまでを表記した。
偏差値にして東京大学理Ⅲの78をトップにランクEでは50後半クラスである。
日本には全部で1000校程度の大学があるそうだ。それを全て表記することはムダなデータになるので挙げなかった。
またランクの入れ替えは毎年少しずつ変化しているが、EからAに変わったりはしないので、ある程度の指標にはなるかと思う。無論、FランクからEやDへランク上げされるケースもみられるので、ここに記載されなかった大学が翌年はランクインされていることも珍しくない。
寧ろ、これらの大学で教育の質がどのようになっているか調査する方が大変だろう。満足のいくデータを得るためには時間もかかるだろう。
従って進学の場合、大学ランキングに拘りすぎて最適な大学を逃してしまうことにもなりかねない。




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Posted by *clear* at 14:22│Comments(0)受験・進路
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