2011年06月05日

そっち方面でなくても指のない人がいる

さうるばーとさんが手押しカンナを購入したらしい。

そっち方面でなくても指のない人がいる

電動工具の危険性は以前にも記事にしたが、危険度の高さで5本の指に入るであろう機械に手押しカンナは毎年ノミネートされる猛者である。
テーブルソーは電動丸のこを逆さまにすることで成立しているように、手押しカンナは電気カンナを逆さまにした機械と思えばいい。削る仕組みは全く同じなんである。
若干違うと言えば材料に対する刃の回転方向が逆ってことだろう。
電気カンナは回転する刃の方向が犬掻きよろしく、前方へカキカキしている。だから気が緩むとカンナが走る現象が起きる。これはこれでかなり危険。
一方、手押しカンナは刃の回転が自分に向かっている。ということは材料を挿入する時に若干抵抗を感じながら作業することになる。実はカンナには削る方向があって、通常、順目という方向に削らないと切削面が荒れる。これを逆目掘れという。
手カンナでは面が荒れるだけだが、手押しだと大きな抵抗になるし、節に当たると強烈に押し戻そうとする力が発生しキックバックとなる。
指を落としてしまう原因は、小さな材料や薄い材料を挿入した時、最後の部分で指が下がってしまっているからだ。挿入するのに抵抗があるので角に指を掛けてしまうのが原因なのだが、たった1度の失敗で指は手からオサラバだ。大体、1万回転以上のスピードで回転する刃物に指が当たればひとたまりもない。


それでも、こんな機械を使う理由。
それはこういう理由だ。
販売されている木材は様々な理由で寸法に狂いがある。これをどうしても調整しなければならなくなった。
材料に反りがあって直角が出ていない(これを「矩の手が狂う」という)
この2点だ。電動工具がなかった時代は全てカンナを掛けてこれをやっていた。しかしカンナという道具は非常に繊細な道具で刃を研ぐだけでも長年の経験を必要とする。それをほとんど一瞬といえる時間で行えるのが電動工具や木工機だ。
しかし手押しカンナは表面の美麗さを出す為の機械ではない。そういうことを目的に用意されるのは超仕上げカンナという機械で、これになると価格は軽自動車の新車が買える値段になる。

そっち方面でなくても指のない人がいる

加工のイメージだが、反った材料に基準面を作る方法で考えるとわかりやすい。
図のような材料の場合、まず基準面1を作る。逆方向に作るのは不安定で加工し難いのでこの面が最初の加工面だ。
この面が出来上がると、基準面1を垂直フェンスに押し当てて基準面2を作る。これは逆目にならないように面を決める。ここで手押しカンナの仕事はおしまい。
では反対側のAとBはどうするのか。

そっち方面でなくても指のない人がいる

ここからは自動カンナの登場。
この機械は上に回転する刃物が付いていて、先程、手押しカンナで作った面を基準に削っていく。
自動カンナは送り装置が付いているのでマニュアル通り使えばあまり危険の伴わない機械。残りの2面を加工すると矩の出た材料が得られるのである。一見、手押しでも同じことができそうに思えるかも知れないが、同じ厚さに加工したり全てが平行になるよう加工したりするには手押しカンナだけでは非常に困難である。
つまり手押しカンナと自動カンナはセット。
アマチュアで導入するには敷居が高い機械である。しかも日本では危険な機械ということもあってアマチュア向けな機械がほとんどなくRYOBI HL-6Aくらいしか思い当たらない。このことがこの機械への理解を深められない一因だと思われる。
一方、アメリカでは多くのメーカーから販売されている機械で、かつてはDELTA社のものがテーブルの精度もよく価格的にもコストパフォーマンスに優れていて人気があった。特に誘導モーターを採用して騒音が小さく(日本の住宅事情ではかなり重要)、Shop Master(アマチュア用)シリーズでも基本設計はプロ用と同じという点で圧倒的だった。端落ちしない点でも定評があった。ただ価格的に40万以上の出費は導入するには躊躇う金額だ。尤もDELTAが合併されていつの間にやらこの手の機械がなくなっていたが。
ここで紹介した画像はGrizzlyというメーカーのもの。JETもかつては安価で性能のいいメーカーだったが次第に高くなり、日本での扱いもなくなってしまっている。
このGrizzlyというメーカーは往年のJETを思わせるメーカーで、ネット販売しか行っておらず価格を抑えている。生産は中国・台湾だが、他のメーカーも同じなので性能的に開きがあるわけではない。

僕も導入を考えたことがあった。
しかし価格の問題、設置場所の問題など思い止まらせる理由があり過ぎて導入しなかった。確かにあれば可能性が広がる魅力は十分。
しかしGrizzlyの製品でも輸送費と関税を考えると相当な出費で、気安くは導入できそうにない。第一、設置場所もないし、あんな重い機械をどうやって運び込むか想像もつかない。重いことはいい機械の重要な要素だ。往々にしてアメリカの機械は重い。
しかし、木工をしているとビシッと矩の手が出ているのは人生目標みたいになってしまう(笑)
危険を承知で手押しカンナを導入する気持ちも良くわかる。
クラフトフェスタで話したときに手押しカンナの話題が出たが、そのときはまさか導入するとは思わなかった。
次回に会うときは無事に指がありますように・・・というのは冗談だが、多分この大分で木工機を導入してまで製作していてブログをしているのはまず少数派。
ぜひ安全面や使い心地をレポートして欲しいね。そういう記事は貴重だ。
特に日本語の手押しカンナでの実務テキストは極めて少ないからね。
FC2の方はやはりBTS21へのアクセスが多いことからも、日本のアマチュア木工家は木工機の情報に飢えていると想像してます。大体、アマチュア木工機を導入してまで嵌ってるのは楽器製作やスピーカーを自作するような人が多くて、家具の分野は本業木工家とアマチュアに明らかな溝を感じる。
期待してますよ。





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この記事へのコメント
こんばんは *clear*さん

普通は手押しと自動セットで使用するものですが、
テーブルソーや、市販の材料のカネンテを信用して、
自動のみで、製作してきました。
厚みを揃える事が出来るだけでも十分便利ですよ。
(ソリに対しては全くダメですけどね)

危険性を考えると手押しは人に薦められる物ではないですからね。
刃の調整もかなり難しかったです。
今後ぼちぼちレポートしていきます。
Posted by さうるばーとさうるばーと at 2011年06月06日 00:49
結局、材料選別で篩いに掛けることが究極と思うようになりました。
素で狂う材料は結局、製作後の狂いも生じやすいものです。いろいろ考えて出た結果は基本に立ち返ることでした。
料理が素材選びから始まるのと似ています。
こういう機械導入で自由度は高くなりますが、危険度も高くなります。
捩れのある材料なら全くお手上げですからね。

ところでアメリカではバンドソーに人気があります。
工房に据えるべき一台目としてバンドソーを上げる人が多いのは、その後に手押しと自動を導入することを見越しているからです。あちらの環境がいいことも、こういう大型機械を入れられる理由ですが、様々な補助具がフォローされていることは見逃せません。これに比べて日本は経験と勘に頼っていて、理論的なフォローをしないまま技術を継承しようとしています。これは大問題だと思います。

あえて反対意見風にコメントしましたが、世界からアクセスできるネットですからこういう問題点も挙げてみました。万能な機械なんてないのですからそこに気付かせる文章は差し挟んだ方がいいと思いました。
メリットとリスクは同じように扱っておくのが肝要です。

さてHL-6Aはカッターの刃で調整するのだったと思います。これは調整が難しいと思います。
こういう設計になっているのは替刃だから、という理由以外に思い付きません。逆にテーブル側で調整する機械もあるのですが、こっちはもっと意味が分からん(笑)
レポート期待してますよ。
Posted by *clear* at 2011年06月06日 10:28
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