空中の棚
木工で棚を作る機会は多いもの。
ただ床や机の上に置くタイプと、壁に取り付けるタイプでは同じディスプレイをしても部屋のイメージがかなり異なってきます。壁面のアクセントだけでなく、高さを揃えて設置すればシャープに、高さを変えて設置すればリズミカルに、と設置の仕方でも表情が変わってきます。
しかし、壁に取り付ける方法は千差万別。
各人の工夫の見せ所と言えます。
今までにも壁付けの棚は何回か作っていますが、市販のDカンだったり、自作のワイヤー金具だったり、それはコストとの闘いだったように思われます。
今回、製作したものは補強のストラップに穴を空けて取り付けられるようにしたキーホールと呼ばれるものです。
余分な金具が要らず、その分コストが落とせます。
無論、漠然と穴を空けた訳ではありません。
ビスが使える環境なら、壁下地の桟にビスが揉めるようピッチを桟木ピッチに合わせています。
賃貸でビスが使えなくともピンが入るサイズで開口していますから、ピンに嵌め込む方法が使えるのが特徴です。ピンは
こういうタイプのものが適しています。
ピンの頭の形状が重要ですが、このピンは針の痕が残り難いタイプです。
“Etagère flottant dans l'air”
今回、作ったのは2種類。
下側の板が12mmと15mmのもの。
12mmでも充分な強度ですが、15mmだと書籍でも耐えられる材厚となり使用方法の幅が広がります。
色は白い壁でも似合うオークカラー仕上げ。
材料は杉の荒材から研ぎ出しています。
表面はご覧の通り、光が反射するくらいまでの仕上げ。
信じられないことですが、こういう下地調整をせずにリリースする方が少なからずいます。トゲが刺さる可能性を本人が知っていながら、それを平然と販売しているのは良心を疑いたくなります。タダなら話は別ですが、お金を貰うからには「注意してください」ではなく、安全に使えるものでなければダメでしょう。荒材のささくれたトゲが刺さると結構痛いですよ。
一番驚いたのは、荒材のまま使うのが「主義」というもの。
それは「主義」じゃなくて「手抜き」じゃないの?
テーブルのトップなのに荒材の9mm厚なんて正気では考えられないです。使う人の安全すら考えず、安上がりに作って売れればいい、というのが見て取れ非常に不愉快でした。
カンナ掛けしサンディングしてから使う方法を話したこともありますが「そこまではできない」と言われた時も驚きました。趣味だ、というのなら手間隙を惜しむのはおかしい、と思ったからです。趣味でやっている人ほど売上げに束縛されないので、必要以上に手間と時間を掛けてしまうものです。
本来、手間を掛けられないのは職業木工家の方で、素人より手が込んだものが作れるのは長い鍛錬の結果なのであって、売上げの観点からアワーレートに束縛される彼等は
必要のない手間は掛けません。プロはその勘所がわかっているからこそ抜けるのです。
この人は矛盾したことを言うな、と思いました。
あえて辛いことを書きますが、「消費者の幸福」は廻り回って「作り手の幸福」でもあり、技術や手間、アイデアに対しての対価を支払う、となれば全体の底上げになると思われます。いい環境に移行するためには最低ラインでの賃金底上げは必要だと思うのです。
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