手作りの家具や木工品は木目であったり、素朴な手作り感がウリです。
そして工場で大量生産されるのではなく、一点一点が丁寧に作られたこの世で“オンリーワンの作品”だからこそ価値があるのだと思っています。
反面、対価を支払って購入してもらう製作者は販売する側として作品に対する説明責任があると考えています。いい面があれば悪い面もあって当然。それを説明していないのは問題なのでは?
買う側の意識は作り手を「プロ」と見ているのではないでしょうか。そこに趣味やアマチュアという言い訳は通用しないと思います。
無垢の木味を活かした手作り家具ではありますが、だからと言って木を組み立てて完成するわけではありません。必ず、と言っていいほど塗装仕上げを行ってフィニッシュとなります。塗装には大きく別けると2種類あります。
1、塗膜を造膜する塗料
2、塗膜を形成しない塗料
1は一般的に知られるペンキで、色の成分「顔料」を合成樹脂に有機溶剤で混ぜたもので、それに定着させるバインダーなどの添加物を加えた塗料です。対象物の表面に造膜するので透けて見えなくなります。
2は素材、即ち塗装される対象物の生地を活かした塗装です。この系統の塗料はオイルステインなどに代表される着色剤が相当します。今回はオイルステインなどの「オイルフィニッシュ」のメンテナンスについて述べたいと思います。
オイルフィニッシュという手法はかなり古くからあった仕上げ方法です。様々な種類のオイルを用いてきたことや手法が存在し、恐らく人類が木という素材をより耐久性が高く美しくしたい、と考えた時に最初に用いたものだと思われます。それだけ長い歴史を持ちながら、どのような効果がありどんな欠点があるのかあまり知られていないような気がします。
オイルフィニッシュに用いられるオイルは「乾性油」と呼ばれるグループのオイルが用いられます。オイルは酸素と触れると酸化しますが、酸化作用によって二重結合しやすい樹脂化するオイルをこう呼びます。オイルに含まれるリノレン酸、即ち多不飽和脂肪酸(オメガ3脂肪酸)が多く、特にヨウ素価の高いオイルほど二重結合しやすくなります。これらの代表的なオイルとして
1、亜麻仁油(Linseed oil)
2、煮亜麻仁油(Boiled linseed oil)
3、桐油(Tung oil)
4、荏胡麻油(Perilla oil)
5、胡桃油(Walnut oil)
これらのオイルが挙げられます。これ以外の半乾性油、不乾性油も時折用いられてきたことが知られています。古い文献にはオリーブオイルが使われた記述もあります。
ワトコオイルは亜麻仁油が主成分です。
油性オイルステインもこれらの天然油に合成樹脂や有機溶剤、顔料を混ぜたものですが、ワトコオイルと決定的に異なるのは速乾性を追及するための添加物(金属乾燥剤)を多く含む、ということです。天然油脂でも煮亜麻仁油や桐油は乾燥添加物を含みますので、食器などには使えません。
水性オイルステインは天然オイルではなく合成樹脂が主成分で、ウチでは使わない塗料なので省きます。
さて、このオイルを塗装する目的ですが、勿論、着色し美装することが大きな目的であることは疑う余地がありません。木肌を活かすだけでなく、オイルを塗装することで木目が際立ち、とりわけ広葉樹は美しい木目が浮き上がって感動します。
そしてオイルが浸透した木は内部からオイルが固まり木の強度が高まります。つまり美装と強度アップを兼ねています。
しかしこのオイルは一度塗れば永久的に維持できるものではありませんし、木の呼吸を止めていないので湿度が自由に出入りでき水には弱いという弱点もあります。しかも樹脂化したオイルはガラスのようには硬くなく、やがて徐々に抜けていくものなのです。
そこで年に一回程度、オイルの抜けた分を補充してやる必要が出てきます。これが今回のメンテナンスに相当するわけです。
どのように行うかですが、簡単にいうと先程挙げたオイルのいずれかを塗布してやれば結構です。よく知らずにオレンジオイルやレモンオイルでメンテナンスする方がいますが、柑橘類のオイルにはリモネンという成分が含まれており、どちらかというと汚れ落としが目的です。そればかりか樹脂を溶かす性質があるので、せっかくのオイルを溶かし出してしまいます。
ところで残念ながら一番乾燥が速い煮亜麻仁油でさえも完全乾燥には1日以上を要します。値段的には亜麻仁油が最も安価で食器にも使えます。ただし乾燥はかなりの時間が必要です。
ワトコの
リフレッシュオイルもメンテナンス用で乾燥時間は約半日。200mlで定価950円です。
それでも時間が掛かり過ぎる、という方には同じくワトコの
メンテナンスムースをお薦めします。60mlで定価1,980円と少し高くなりますが、塗布後、1時間で乾燥する速乾タイプです。しかもお手軽なスプレータイプで、この60mlタイプで約8㎡の処理が可能。
今回はこのメンテナンスムースを使って説明します。
まず用意するものです。拭き取り用のウエス(ボロ布)木綿の白いTシャツなどが良いでしょう。化学繊維の入ったものは避けてください。余計なところにムースが付かないよう新聞などの養生。汚れが酷かったり傷があったりして下地調整が必要な場合は、#240くらいまでの各種サンドペーパーと当て木を用意してください。
作業する場所は屋外の日陰が適しています。また風が強い日は砂埃で傷を増やすことになるので避けてください。
まず表面のクリーニングを行います。埃を払い、固く絞った雑巾で汚れを落とします。水分が完全になくなるまで待ってからムースを塗布しますが、乾燥は日陰で行います。特に夏は直射日光にあてると高温のために木が割れてしまうことがあります。
浅い傷はサンドペーパーで取り除きますが、いきなり荒い番手を使うのではなく細かい目で試して消えないなら徐々に荒いものへ進んでください。荒い番手から徐々に細かいものへ替えて行き最終仕上げを#240で行って下地を整えます。塗装部分が削れて木が露出してしまうほどの深い傷は、再塗装が必要なので諦めるか、再塗装のご相談を。
ムースの噴射方向を確認して吹き付けます。結構、勢いよく飛びますのでご注意ください。
吹き付けたらすぐにウエスで塗り広げ塗り漏らしがないよう摺り込みます。塗り過ぎは表面でオイルが固まってしまうので拭き取ってください。少しの量でもよく伸びますので様子を見ながら加減するのがいいと思います。
乾燥したら終了です。
どうです、簡単でしょ。
ノズルに残ったムースはキレイに拭き取ってください。固まって出なくなります。
拭き取りに使ったウエスはオイルが固まる時の熱で自然発火する恐れがあるので、よく乾かして袋に水を入れ染み込ませてから廃棄してください。
このメンテナンスムースにはワックスも含まれていて、造膜するタイプの塗装にも使用でき艶を出してくれます。当然、そうでないものでもワックス効果があるのでしっとりとしたワトコ独特の自然な艶が甦ります。よりしっとりした艶が欲しい時は4~6月のメンテナンスをお薦めします。
このように自然な風合いを持つオイルフィニッシュの家具たちは魅力的ですが、使い放しが基本的にできません。無造作に扱って傷がついた家具もそれはそれで魅力がありますが、長く使うのならメンテナンスは必須です。自動車だって定期的にオイル交換が必要でメンテナンスしなければなりません。家具も同じです。
自動車は無機物ですが、有機物の木は作者の手から離れた瞬間からお客様の元で成長するものだと思っています。使われて息吹を吹き込まれ、メンテナンスされ歴史を重ねることで更に風合いを増して行くものだと考えています。
「エコロジー」という言葉が言われるようになって随分と久しいですが、本当のエコとは良い物を長く大事に使うことじゃないかとずっと考えています。少なくとも「エコ減税」とかの名目でクルマを乗り換えることがエコじゃないのは明白。
使い捨ての時代はもう長くないと思います。
今後はより「修理」や「メンテナンス」そして「リメイク」が注目を集めるようになるんじゃないでしょうか。お客様に関心をもってもらうという意味で作者はこういうアナウンスを行うわなければならないし、また作るだけではなく修復を含めた幅広い知識や手法を蓄えねばなりません。それは将来に向けた価値ある行動だと思います。